31011 「アメリカ宗教文化論」
東京大学教養学部後期課程 地域文化研究学科 515教室 IV 14:40-16:10
主題
20世紀のアメリカ連邦最高裁判所が下した「信教の自由」をめぐる重要な憲法判断には、ロジャー・ウィリアムズという17世紀ピューリタンの名前がしばしば引用されている。日本では「ピューリタン」というと狭量と頑迷さの代名詞のように扱われることが多いが、アメリカ建国以前の精神史を構成する彼らが今日の人権思想の淵源ともなっていることはあまり知られていない。
この授業の目的は、「政教分離」や「信教の自由」、それに現代リベラリズムの根本信条である「寛容」などといった隣接諸概念を、特に初期アメリカという歴史的文脈に即してていねいに切り分け、その複相性と含意の拡がりを再考することである。扱われる対象は歴史的であるが、関心はあくまでも現代の形成的な課題なので、歴史に軸足を置いた思想研究、と言うべきであろうか。
授業内容
はじめに導入の講義をした後、分担を決めて課題図書を読んでゆきたい。主テキストは現代の研究書(英文)から一冊を選ぶが、必要に応じて担当教員が一次資料のコピーを配布する予定である。特に難しい文献を読むわけではないが、受講学生には腰を据えてテキストの読解とテーマの理解に取り組む姿勢が必要である。
主テキスト
Andrew Murphy, Conscience and Community: Revisiting Toleration and Religious Dissent in Early Modern England and America (Pennsylvania State University Press, 2001), Chapters 1, 2, 6, 7 and 8.
関連文献
- ロック『寛容論』(中央公論社『世界の名著』所収)
- ミル『自由論』(岩波文庫)
- メンダス『自由主義と寛容の限界』(ナカニシヤ出版)
- ロールズ『正義論』(紀伊国屋書店)
- サンデル『自由主義と正義の限界』(三嶺書房)
- ウォルツァー『寛容について』(みすず書房)
- Edmund S. Morgan, Puritan Political Ideas: 1558-1794 (1965, reprint 2003)
- Timothy Hall, Separating Church and State: Roger Williams and Religious Liberty (1998)
-
連邦最高裁の憲法判断に Usable Past としてよみがえった Roger Williams (1603-83)
- Minersville School District v. Gobitis (1940)
- Engel v. Vitale (1962)
- Abington School District v. Schempp (1963)
- 最近わたしが書いたもので関連する文献
- 「ロジャー・ウィリアムズに見る政教分離論の相克」、大西・千葉編『歴史のなかの政教分離』(彩流社、2006年)
- 「ニューイングランドにおける<誤れる良心>の寛容論」、(国際基督教大学『社会科学ジャーナル』61(2007)
- 「誤れる良心の寛容論――中世から近世への神学的系譜」、(国際基督教大学『人文科学研究』38(2007)
- 『アメリカ・キリスト教史』(新教出版社――4月中に再版の予定)も背景理解に役立つはずです。
成績評価
- テキストの読解力(自己担当時に限らない)
- 質疑や討論などによる授業内容への貢献度