PHR332 神学宗教学の諸問題          Spring 2011 W/567, H-357 Instructor: A. Morimoto

 

 

主題:「良心の自由」から見た人間論

 

解題:

 

 人間は平等か。アメリカ合衆国の独立宣言には「すべての人は平等に創られた」とある。福沢諭吉も「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と論じた。問題は、現実が必ずしもその通りではない、ということではない。現実がその通りでないのに、なぜそれにもかかわらず、なおも人間は平等であると言えるのか、ということである。現代人のこの疑われざる信念は、いったいどこから来るのか。そして、平等を語る者は、洋の東西を問わず、なぜ「天」だの「創造」だのという言葉を使うのか。

 人間は、権利や尊厳において平等であると言われる。いや、平等である「べき」だと言われる。なぜそう言えるのか。人権を基礎づけるのは、人権宣言でも人権規約でもない。それらは人権を守る働きをするが、その守られるべき人権を基礎づけはしない。人権は、国家や国連が与えるものではないからこそ、不可侵の「基本的」人権とされるのである。では、それはどのように根拠づけられるのか。

 こうした問題を考えるために、この授業では「良心」を取り上げる。良心の自由は、人間の根本的な権利であり、個人の尊厳と平等の根拠である。日本ではこの点が曖昧で両者の結びつきが不明なため、裁判所ですら少数者の人権擁護という司法の本来的な務めを果たすことに関心が薄い。しかし、裁判員制度の開始により、日本人はもはやこの問題を避けて通ることができなくなった。

 良心とは何か。それはどのように働くのか。「良心の自由」とは何を意味するのか。良心は万人がもつものか。それとも、良心は特定の文化や宗教に固有のものか。そして、それは人間の尊厳や平等という理念とどのような関わりをもつのか。

 ピノキオが人間になったのは、Jiminy Cricket という良心が内在化された時であった。つまりこの授業は、良心論を手がかりに人間論を展開する試みである。その目的は、以上の議論を手がかりとして、各人がみずからの思索を鍛えることである。

 

 

課題:

 

・はじめに導入の講義をした後、毎週テキストに沿って学生によるプレゼンテーションとディスカッションを行います。プレゼンテーションについてはグループ全員に同一の評点が与えられます。

 

・特に予備知識などは必要ありませんが、毎週テキストをしっかりと読み、論旨と背景を理解し、それにもとづいて議論を交わすことが主眼となるので、準備に十分な時間をかける覚悟が必要です。また、授業時間外の自主的なグループ学習を奨励します。

 

・学期末には、論点を整理し思考の道筋を確認するためのレポートを提出してもらいます。A4用紙5枚程度の短いものとなる予定。締め切りなど詳細については、後に指示します。

 

・連絡や資料配付や課題提出のためにムードルを使用しますので、各自登録してください。 

 

 

成績評価方法:

 

 授業への貢献 30%、プレゼンテーション 40%、期末レポート 30%

使用文献:

 

 複数の本から数章を抜き出して読みます。以下はその一部です。

 図書館にあるものについてはリザーヴに指定しておきましたが、

 インターネットから全文テクストがダウンロードできるものもあります。

 

 ・Martha C. Nussbaum, Liberty of Conscience: In Defense of America's Tradition of Religious Equality (New York: Basic Books, 2008)

 

 ・Douglas C. Langston, Conscience and Other Virtues (Penn State University Press, 2001)

 

 ・Michael J. Sandel, "Freedom of Conscience or Freedom of Choice?" in James Davison Hunter and Os Guinness, ed., Articles of Faith, Articles of Peace: The Religious Liberty Clauses and the American Public Philosophy (Washington, D.C.: Brookings Institution, 1990).

 

 ・Gordon Wood, The Radicalism of the American Revolution (New York: A. A. Knopf, 1991)

 ・Gordon Wood, The Creation of the American Republic (1969)

 

 ・Bernard Bailyn, The Ideological Origins of the American Revolution (1967, 1992)

 

 ・Ellis Sandoz, ed., Political Sermons of the American Founding Era, 1730-1805 (Indianapolis: Liberty Press, 1991).

 

    Joseph Butler, Fifteen Sermons Preached at the Rolls Chapel

 

 ・John Trenchard and Thomas Gordon, Cato's Letters (1720-1723)

 

 ・A Well-Wisher to Mankind [John Perkins 1698-1781], Theory of Agency: Or, An Essay on the Nature, Source and Extent of Moral Freedom (1771)

 

 

授業予定:

 

            4/13          序論・問題設定

 

            4/20         

 

            4/27         

 

            5/11         

 

            5/18          (遠隔授業)

 

            5/25         

 

            6/1          

 

            6/8          

 

            6/15          総括